感想:催眠誘導ハンドブック

先日、知人から「催眠術を覚えるのにどうしたら良いか」という話題を振られたので…

「理論はともかく催眠術を掛けるだけなら本屋で適当な書籍を買って、20人くらいにやってみた方が早い。」という結論になり、その足で一緒に本屋へ。

そこで、適当な本を見繕っている際に見つけた本がこちら

イゴール・レドチャウスキー (著), 大谷彰 (翻訳)

他にもう1冊良さげな本があったのですが、入門向けならこの本が私の知る限り現時点でのベストかなと思います。

追記:2020年9月に出た『はじめての催眠術』が現在のベストに成りました。
→ 感想:『はじめての催眠術』(著:漆原 正貴)

『催眠誘導ハンドブック』

エリクソン派にNLPのテクニックを足して体系化したような本。

ミルトン・エリクソンが臨床記録をしっかり取っていなかったという情報があるため、エリクソン催眠と聞くとちょっとアレな感じもしますが、この本の内容は割と再現性の高いテクニックがベースになっています。

それと、著者自体は研究者でも臨床で催眠を使う人でもない、いわゆる「素人」であるため理論としては催眠を習ったときの情報にかなり引きずられている印象があります。もし、理論から知りたい人はやはり以前から名前を挙げている『THE OXFORD HANDBOOK OF HYPNOSIS』を読んでください…

良いところ:

  1. 紹介されている原則が実践的
  2. 催眠術を始める前からのエクササイズが紹介されている
  3. ショー催眠でも使われる誘導テクニックが多く載っている

原則

最初の方に、原則について書かれています。非常に実践的な内容で、私が普段から使っているテクニックや気をつけているポイントに名前が付いており文章化されています。もうこの時点で私が入門向けのレクチャーを出す必要はほぼ消えました(゚∀゚)

エクササイズ

催眠術を始める前のエクササイズとして、ラポールの築き方から、周辺視野を使った被験者の観察、ある種のコールド・リーディングの訓練があります。一人ではできませんが、かなりいい練習方法が紹介されています。

ここまで読んで「パトリック・ジェーン養成本か!?」と思ったくらいです(割と適当)。

そこから、催眠術中に使う暗示のエクササイズが紹介されています。声のトーンや指示、散りばめ法、アナログマーキングの練習方法が簡単にですが、紹介されています。

誘導テクニック

被暗示性テストや最初の誘導に使うテクニック(トリックを利用したものも含め)のバリエーションが比較的多く載っています。

特に、握手かららの誘導法は3種類あり、ダレン・ブラウン等がやっている方法も紹介されています。そして、恐らくエリクソンの握手誘導法をちゃんと解説してるのはこの本だけな可能性があります(全ての書籍を見ているわけではないので、絶対とは言い切れませんが…)

これら以外にも、訳者は推奨していませんがストリート催眠についての話やグールプ催眠でのやり方のようなものまで載っています…また、訳者が巻末資料で状態論と非状態論の話をしてるのもポイントが高いです。(訳者もエリクソン派で状態論派で主張にやや偏りを感じますが、他の人達に比べたらかなり中立的な見方をしています)

微妙な所

  1. エリクソン派
  2. NLP
  3. 初心者にはハードルが高い

エリクソン派

既に述べたように、エリクソン催眠はちょっと問題があるカテゴリでもあるので、実際の効果としては分からないというのがあります。ただ、本人がやれているようなので、この本で紹介されている分には使えるテクニックだと思います。というか、私が普段やっている方法までバッチリ解説されていますしね…(゚∀゚)

NLP

NLPも未だに賛否両論のある分野ということで名前を挙げました。内容的に薄っすらとアレな感じがするのが難点かなと。

それと気になったのが訳者が補足で書いているリチャード・バンドラーの著書が2008年のものであることです。

リチャード・バンドラーはNLPの創始者の一人ではありますが、割と早い段階でNLPとは関係を断っており、独自に開発したDHE(Design Human Engineering)やNHR(Neuro Hypnotic Repattering)というメソッドを使っています。なので、NLPと似てはいますが非なるものですし、NLPの補足しては不適当かと思ったりしています。

実際の所、バンドラーが提唱した初期のNLPと現在のNLPは違う物になってきてしまったという背景があったりするので、これぞNLPと言える可能性もなくはありません。

ちなみに、NHRは思いっきり催眠術を利用する方法らしく、気になっているのでそのうち調べるかも知れません。

初心者にはハードルが高い

手軽に催眠術を掛ける方法を探している人には向きません。入門向けではありますが、割としっかりやりたい人向けだと言えます。 軽い気持ちで手を出したら高い確率で躓きますよ…

あと、エクササイズが一人ではできないものがちょいちょいあるので、それをやる仲間を集める必要があります。内容的にも、ぱっとその辺の人を捕まえてやれるものではなく、じっくり腰を据えてやるようなものなので、練習に付き合ってくれる人が必須となります。

総評:

既に述べたように、初心者にはややハードルが高いのですが、入門には非常に適していますし、特に自己学習が出来る人に向いています。内容的にも不足は無く、副題の通り基礎から高等テクニックまで知ることができます。

ちなみに、原著がAmazonだと新品で30万円超えと、ちょっとしたプレミアム本になっていたりします。日本語版は訳者の補足などが付いた上で2000円台と非常にコスパが良いのもポイントが高いですね!

個人的にこれを片手にレクチャーしたら楽だなと思うくらいの内容ですね!
(もちろん、これそのものではなく、比較的最近の理論を足して更に効率化されたものを教えますよ…?)

追記:

2020年9月に日本語ですごくまともな催眠入門書が出ました。

理論部分も現在確定している事実がまとめられていますし、この『催眠誘導ハンドブック』で非常に弱かった部分が補完されます。

『はじめての催眠術』と『催眠誘導ハンドブック』を読むと初心者に十分な理論や手法の知識が得られます。

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