変性意識状態(ASC)
変性意識状態についてのお話です。
変性意識状態
英語で言うと altered state of consciousness 略してASCになります。
これに関しては、色々な意見があることを先に言っておきます。
定義についてから話すのが自然ですかね…
まず、一般的な定義は存在しません(ぉぃ)
いきなり話の腰を折った気がします…より正確に言うと、通常の意識状態をどう定義するかで、変性意識状態の定義が変わるという考え方がされています。
また、分野によって意味が変わってきますが、とりあえず一般的な定義は存在しません。
例えば、眠ってる時の意識は通常とは違いますよね?他にも、集中してる状態だったり、興奮してる状態、驚いている状態、悲しんでいる状態、空腹状態、満腹状態、これらは広義の変性意識状態と言うことが出来ます。
通常の意識をまず定義しないと、何が変性意識状態なのかってことが決まりません。
催眠術における変性意識状態
催眠術では特に、催眠状態≒変性意識状態と扱われてきました。
催眠時に表れる反応は、変性意識状態によるものだという「変性意識説」が最近までありました。
これに関しては、以前の投稿でも書いていますが、ほぼほぼ否定されています。
というのも、2002〜2006年にあった実験で、催眠状態(≒変性意識状態)の人と覚醒状態の人に同じ暗示を与えた場合どうなるかの実験があり、結果として暗示の種類によっては大差がなかったり、むしろ覚醒状態時に暗示を与えたほうが効果があるケースまで存在しました。
これによって、催眠時の反応を引き出すために、変性意識状態(≒催眠状態)は必須ではないとの結論になり「変性意識説」が否定された形になっています。(非状態論派によると催眠時の反応は特殊な状態によるのではなく、全て通常の心理反応で説明できる考えられています。つまり「変性意識説」だけでなく「変性意識状態」そのものの存在を否定しています。)
変性意識状態の有無は未だに論争の的となっているとか…
ただ、実験によっては、催眠状態にのみ高い効果が出る暗示も存在するため、催眠状態の存在は「一応ある」と仮定されています。
「今の考え方では、催眠状態≒変性意識状態って考え方は微妙になったけど、催眠独特の状態はありそうだし、通常の心理反応で説明できる部分もあるから、両方の意見を取り入れようぜ…」って流れになっています。(催眠時の脳の状態の変化も、暗示に対して反応してるだけという考え方があったりするので、もう少し研究が進んだら結論が出るかもしれません)
それによって生まれたのがCold Control Theory(コールド・コントロール理論)ですね。ちなみに、これを非状態論だと考えている人を見かけましたが、元々はヒルガード派(状態論派)の理論がベースになっていたはずです。
いずれにせよ、現在の催眠分野において「変性意識状態」という言葉は消えつつあります。
ちなみに、状態論派で変性意識状態を支持していた、ヒルガードの名を冠する『ヒルガードの心理学 第16版』では以下のように変性意識状態について書かれています。
人の意識を構成しているのは、現時点での知覚、思考、感情である。精神機能が変化したとき、あるいは日常性から逸脱した状態にあるとき、変性意識状態が存在すると言われている。この変性意識状態には、睡眠や夢といった日常的に体験するようなものと、瞑想、催眠、薬物使用といった特殊な状況によって生じるものがある。(P.314)
(定義としては正確ではないと、この章の冒頭でされているので、やはり変性意識状態には決まった定義が無いと言えます。)
最初に述べたように、程度に関わらず通常の意識と違っている状態は全て「変性意識状態」と言う場合があります。
変性意識状態は非常に都合の良い言葉で、例えるなら、「頭痛がします」「のどが痛いです」「胸焼けがします」の主訴に対して、「病気ですね」と答えるのに似ています。
とりあえずそう言っておけば間違いはありません。具体性もありませんが…そもそも様々な状態の総称ですし…
トランス状態と変性意識状態
「トランス状態」も変性意識状態に含まれると言われていますが、これも当たり前といえば当たり前です。
面白いのが、「変性意識状態≒催眠状態」はここ10年で廃れましたが、「催眠状態≒トランス」って考え方は依然として残っています。
これも言葉として使いやすいだけって感じもしますが、もしかしたらエリクソンの影響かも知れません…
覚醒状態下での暗示
最後に、これもまた以前の投稿で書いていますが、上述した覚醒状態下で暗示の有効性が確認された実験は非常に有意義だと思っています。つまり、意識のしっかりある人に対して、いちいち変性意識状態を作り出さずとも暗示誘導を使ったフォース、サイコロジカル・フォースが成立することに裏付けになると考えられます。
更に言うと、今までは催眠状態になる(繰り返す)ことで被暗示性は亢進すると、まことしやかに言われていましたが、これも実験によれば言われるほどの有意性は統計上は見られませんでした。
※余談ですが…状態論によると、被暗示性は生来のもので繰り返しても亢進しないと考えられています。また、繰り返しではなく学習によって高まることが非状態論で説明がなされ、ヒルガード等状態論派もそれを認める形になっています。いずれにせよ。繰り返しと学習は違うため、繰り返すことで被暗示性が高まるって考え方は時代遅れだと言えます。
つまり、変性意識状態(≒催眠状態)にしても、暗示を使ったフォースの成功率に影響はほぼ無いわけです。
これらの事を知ったとき、私の中の催眠術に対する感覚や常識は揺らぎましたが、同時にある種の福音だと感じました(ちょっと中2っぽい)。これは私が催眠術を覚えた理由があくまで、暗示を使ったフォースの成功率を上げるためだと言うことによります。
『The Oxford Handbook of Hypnosis』
『現代催眠原論』
『ヒルガードの心理学 第16版』
個人的な感覚ですが、上から、非状態論派よりの中庸、状態論派より、状態論派よりの中庸、の印象があります。
非状態論では、催眠に限らず特殊な「状態」は存在せず、すべて通常の心理反応で説明できると言われています。
逆に状態論では特殊な「状態」があると主張されています。
アーネスト・ヒルガードは状態論派で影響力の強かった人物なので、その流れを汲んでいる『ヒルガードの心理学』は非状態論的な考えも取り入れてはいますが、全体的に見ると中立的なスタンスを保っているようにも見えます。
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